音楽がくれた笑顔

リズムがくれた落ち着きと笑顔:発達障がいを抱える息子と家族が紡いだハーモニー

Tags: 発達障がい, ADHD, 音楽療法, 子育て, 家族の絆

落ち着きがなかった息子に、音楽療法との出会いがもたらしたもの

私たち家族が音楽療法と出会う前、息子の大輝(当時小学2年生)は、ADHD(注意欠陥・多動性障がい)と診断されており、日々の生活は悩みが尽きませんでした。学校では授業中に席を立つことが頻繁で、集団行動が苦手。家庭でも常に落ち着きがなく、おもちゃをすぐに壊してしまったり、大きな声を出したりすることが日常茶飯事でした。

特に心を痛めたのは、家族とのコミュニケーションがうまくいかなかったことです。私の話を聞いているようで、すぐに別のことに興味が移ってしまい、会話が一方的になることがほとんどでした。感情のコントロールも難しく、少しでも思い通りにならないことがあると、すぐに癇窶を起こしてしまうこともありました。どうすれば大輝が穏やかに、そして自分らしく過ごせるのか、私たちは毎日頭を抱えていました。

半信半疑で始めた音楽療法が、一筋の光に

そんな日々の中、地域の交流会で知り合った方が、発達障がいを持つお子さんが音楽療法で良い変化を見せたと教えてくれました。正直なところ、音楽で何かが変わるのだろうかという半信半疑の気持ちがありました。しかし、「何か一つでも、大輝にとってプラスになることがあるなら」と、私たちは音楽療法を試してみることにしたのです。

初めてのセッションで目にしたのは、自由に並べられた様々な楽器に目を輝かせ、手当たり次第に叩く大輝の姿でした。ドラムやタンバリンを力任せに叩き、その音はまるで心の叫びのように響きました。音楽療法士の先生は、そんな大輝の音を決して止めようとせず、優しく、そして力強く、その音に寄り添って一緒にリズムを刻んでくださいました。その光景は、私たち家族にとって初めて見る、大輝の感情が音として表現されている瞬間でした。

音が心を解き放ち、具体的な変化へと繋がる

最初の数回のセッションでは、大輝はひたすら好きなように音を出し続けました。しかし、音楽療法士の先生がその音に共鳴し、時に優しく、時に力強く音を重ねてくれることで、少しずつ変化が現れ始めました。単に「叩く」行為だったものが、先生との間にリズムの「対話」が生まれてきたのです。

最も驚いたのは、セッションを始めてから約3ヶ月が経った頃の出来事でした。家で落ち着きなく走り回っていた大輝が、音楽療法で覚えた手遊び歌を小さな声で口ずさみながら、リビングで静かに絵本を眺めていたのです。以前は数分と座っていられなかった子が、15分もの間、集中して本を読んでいました。私たち夫婦は、その光景に目を見張りました。

さらに、感情表現にも大きな変化が見られました。以前は不満や怒りをそのままぶつけてしまうことが多かったのですが、セッションで「この音はどんな気持ちかな?」と、音に感情を乗せる練習を重ねたことで、自分の感情を言葉で伝えようとする姿勢が見えるようになりました。「僕、今イライラしてるから、ちょっとドラム叩いていい?」と、親に自分の気持ちを伝え、許可を求めるようになったのです。これは私たちにとって、本当に大きな一歩でした。

そして、家族との関わり方も穏やかになりました。音楽を通じて感情を表現することを学んだ大輝は、以前よりも相手の言葉に耳を傾け、反応を待つことができるようになりました。週末には、私がピアノで簡単なメロディーを弾くと、大輝がタンバリンで楽しそうにリズムを刻んでくれます。父親が歌を歌うと、それに合わせて手を叩くこともあります。音楽が、私たち家族の間に温かいハーモニーを生み出し、以前よりも多くの笑顔と会話が生まれました。学校の先生からも、「最近、大輝くんが落ち着いて授業を受けられる時間が増え、友達との関わり方も穏やかになりましたね」という嬉しい報告を受けました。

音楽がくれた、未来への希望

音楽療法は、私たち家族にとって、単なる治療ではなく、大輝が自分自身を表現し、私たちと心を通わせるための大切なツールとなりました。母親として、ただただ音を叩いているだけだと思っていた息子の行動が、音楽療法士の先生の視点を通すことで、彼なりの表現であり、成長の過程であったことに気づかされました。

私たちは、大輝がこれからも音楽と共に、自分らしく穏やかに成長してくれることを心から願っています。もし、私たちと同じように、お子さんのことで悩みを抱え、何ができるだろうかと考えていらっしゃる方がいれば、ぜひ一度、音楽療法の扉を叩いてみてはいかがでしょうか。私たちも最初は半信半疑でした。しかし、その一歩が、想像以上に明るい未来へと繋がるきっかけになるかもしれません。音楽は、きっとあなたとご家族の心に、温かい光を灯してくれることでしょう。